「んっ・・・あん、ああっ・・・・お兄・・・ちゃん・・・っあ!」
ショートヘアのよく似合う、小柄で利発そうな少女の喘ぎ。
狭くて薄暗い部屋の布団の上で、幸野双葉は男の上に跨り腰を振っていた。
部屋に充満する性の臭い。
何人分かの汗の染み込んだ布団の上に横たわる男を、愛しい者を見る目で見つめていた。
下になっている男が腰い使い始める。
それに合わせ、より一層激しくなる少女の動き。
限界が近かった。
きゅうきゅうと男の精を欲する、狭くて熱くて柔らかな少女の部分。
熱い迸りを最奥で受け止めようと、膣襞の一つ一つがおねだりをする。
その動きに触発され、袋の中から種汁が込み上げてきた。
小さな腰を両手で掴み、トドメとばかりにえぐり込むような突き上げを繰り出し、子宮の奥めがけて精を放った。
ブビュッ!! ビュクッ! ビュクッ! ビュクッ! ・・・びゅく、びゅくん・・・っ!
少女の胎内が愛しい男を感じ取り、満足げに震えて絶頂を迎える。
「ぅあっ!? あっあっあっあっ、あああぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
子宮で飲み下し、全身に広がる恍惚の震え。
甘くて鋭い絶頂の痺れに、少女の顔と頭の中がトロけた。
口の端から涎を垂れ流しながら、愛する「お兄ちゃん」の胸に顔を埋める。
二人分の荒い呼吸が狭い世界に満ちる。
音はそれだけだった。
あとは温もり。
大好きな「お兄ちゃん」の肌の暖かさ。
今、双葉にとっての世界はそれだけだった。
息が徐々に整い始める。

ニュチリ・・・
身じろきすると、結合部で淫らな音が立った。
双葉が愛を込めて「お兄ちゃん」と呼び慕うのは嘉神悠志郎。
しかし双葉の下で射精の余韻に浸り、力を失いつつあるイチモツで
弛緩と収縮を繰り返す肉穴を愉しんでいるのは、双葉の「お兄ちゃん」ではなかった。
全然知らない男だった。
弛む腹の肉。
剥げ上がった頭。
四十がらみのむさいオッサンである。
どこからどう見ても、双葉の言うところのお兄ちゃん「嘉神悠志郎」とは似てもにつかなかった。
あえて似ているところを上げろと言うのならば、右上の奥から2本目の歯が
少し斜めに生えているところぐらいだろうか。
それぐらい、カケラも似てない。
では何故、双葉がこの男の事を「お兄ちゃん」と呼ぶのだろうか。

それは数ヶ月前に遡る。
時は大正、有馬神社の境内から望むことのできる発展途中の街。
ここで起こった『連続少女妊娠事件』
その事件を解決せんがため、帝都からやってきた希代の探偵・嘉神悠志郎。
および、その助手の幸野双葉。
悠志郎は、催眠術を操り少女達に売春をさせる組織のビルヂングに乗り込むのだが、
双葉を人質にとられ、あろうことか催眠に落ちた双葉に撃ち殺されてしまう。
催眠状態にある時の記憶は無いものなのだが、それを逆に催眠によって思い出させる事もまた可能。
親切な組織のボスと催眠術師は、そのことを双葉に思い出させてあげたのだ。

「ぁ・・・・・・ぁ・・・・・・」
脳裏にフラッシュバックするいくつかの映像。
部屋に響く、思っていたよりも安っぽい銃声。
鼻の奥に残る硝煙の臭い。
崩れ落ちる悠志郎。
その姿が、やけにゆっくりと感じられた。
「・・・・ぃゃ・・・・・・・・・・イヤ・・・・」
声が震える。
身体も震える。
ガクリと膝を折った。
「・・ぃゃ ィャ  イヤ  嫌・・・」
何度も同じ言葉を繰り返し、その数だけ記憶が繰り返される。
目を見開く。
恐怖に瞳孔が狭まった。
「嫌ああああぁぁぁぁああぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっっっ!!!」
凄い声だった。
頭を押さえ、床にうずくまる。
止まらない叫び。
頭を爪でバリバリと掻きむしる。
ちぎれる髪の毛。
血がにじむ頭皮。
愛する彼の名を叫びながら、床にゴンゴンと頭を打ち付ける。
額が割れて血が流れ出した。
床に赤い染みがいくつもでき、顔はトマトジュースを被ったように真っ赤に染まっていた。
しばらくすると、そんな体力も無くなってくる。
意味不明のわめき声もとぎれとぎれになり、血溜まりに額の傷口をこすりつける。
ガクガクと全身に震えが充満し、声と意識が途絶える。
やがて床の上に転がってビクビクと痙攣を始め、
最後には事切れたように動かなくなった。

だが彼女が目覚めたとき、お兄ちゃんは目の前にいた。
自分はお兄ちゃんとこの部屋で暮らしていて、ここからは一歩も出なくて良い。
食事もお兄ちゃんが運んできてくれる。
お兄ちゃんはいっぱいいて、みんな優しくしてくれる。
ただ自分はここで、お兄ちゃんに愛してもらえればそれでいい。
双葉の記憶と思考は、そんなふうにねじ曲げられていた。
しかしそれは、実は催眠術のせいではなかった。
自分が撃ち殺してしまったという罪の意識と愛する者をなくした喪失感。
その他もろもろの感情が作用して、少女の心は均衡を保つために
近くにいる男全てをお兄ちゃんだと思いこむようになったのだ。
一種の逃避である。

さっきの男が身繕いを済ませてさっさと出て行った扉がまた開いた。
どうやら次のお兄ちゃん来たらしい。
布団の上で力無く転りながらブツブツ言っていた双葉が弾かれたように起きる。
好きな人に、だらしのないところを見られたくないのだ。
「早かったね、お兄ちゃん」
裸でいるのと変わらないような服を身に纏い、立ち上がる。
そしてしばらく逡巡したのち、嬉しそうにお腹に手を当てながら
少し前から言おう言おうと思っていた言葉を口にする。
「・・・・ねえお兄ちゃん、私ね・・・・・・赤ちゃん、できちゃったみたいなの」
その言葉は恥ずかしくて、嬉しくて、照れくさくて。
でも、ようやく言えた。
お兄ちゃんは、どう思うだろう。
喜んでくれるかな・・・
堕ろせなんて、言わないよね・・・?
嬉しさと、期待と、ちょっぴりの不安。
それらの全てを笑顔に込めて、双葉はお兄ちゃんに微笑みかけるのだった。